もし職場に発達障害の人がいたら・・・

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「大人の発達障害」という言葉を職場で聞くことも珍しくなくなってきたのではないでしょうか。

そもそも発達障害とは、先天的(生まれつき)な障害のため、「大人の発達障害」と言っても、大人になって発症した発達障害という意味ではありません。

発達障害とは、生まれつきの脳機能障害の一つですが、大人になるまで気付かず、大人になって診断を受けることを「大人の発達障害」と表現しています。

発達障害の分類

発達障害とは、先天的な脳機能障害によって、発達に何らかの遅れや偏りなどの症状が、通常低年齢において発現する障害で、3つに分類されます。

  1. 広汎性発達障害 (自閉症・アスペルガー症候群等※DSM-5では「自閉症スペクトラム症」に統合されている)
  2. ADHD(注意欠陥・多動性障害)
  3. 学習障害(LD)

とはいえ、上記分類のように明確に分類できるものではなく、いくつかの障害の症状が重なることが多く、また症状の程度も人それぞれなのです。診断テスト等をした場合でも、得意な部分と苦手な部分といったように「凹凸」が出てくるのが発達障害の特徴でもあります。

「虹色」と表現されることもあるように、段階的に存在し、個人によって多彩な症状を示します。

職場での不適応

例えば、広汎性発達障害の場合、一般的に臨機応変な対応が難しいため、突発的にいつもと違う対応を求められるとパニックになってしまったりします。

また仕事を進める上で、自分の決めたルールを頑なに守ろうとすることで周囲との間に問題が生じたりします。

コミュニケーション上は、相手の言葉をその字義通りに理解するため、相手の意図するところを汲み取ることが苦手で、曖昧な指示が理解できなかったりします。

ADHDの場合、秩序のなさというのが一貫してみられ、集中できず、一つの課題を完成させる前にあれこれと手をつけ、結局完成できなかったり、期限が守れなかったりすることがあります。

上記のような特徴があるものの、先ほども述べたように、よくある特徴すべてに当てはまる人は滅多におらず、また各分類の特徴が併存している人が多いのが実情です。

今なぜ大人の発達障害が認知されるようになってきたのか

知的能力は通常であることが多いため、学生時代には気付かなかったという人も珍しくありません。

それまでは気付かなかった発達障害に気付くきっかけに多いのが、二次障害による受診です。

発達障害の場合、先に述べたように、周りにうまく適応できない、コミュニケーションがうまくとれないという職場上での不適応に苦しむことがあり、それが仕事上のミスややりにくさに繋がり、そこからうつ病などの気分障害や、無力感からの不安障害など、いわゆる二次障害といわれるものが発現する可能性があります。

その二次障害の訴えで精神科医療機関を受診して、発達障害であると診断されるケースがあるのです。

このように精神科医療機関への敷居は低くなったことも一つの要因と考えられます。

また昔よりも多様性・効率化が求められる現代において、ただ地道に決まった仕事をこなせばよいという仕事が減ってきたという社会構造上の側面も理由として挙げられるでしょう。

いくつかの仕事を応用していかなければならないという職場では、発達障害の人の困難さが表出する可能性が高くなります。
上記のような中で、発達障害が世の中に広く認知されるようになったことが、「大人の発達障害」が発覚する一番の理由でしょう。

発達障害の診断の意義

もちろん、ご本人が何の不便も生きづらさも感じていないのであれば診断を受ける必要性はないでしょうが、診断を受けることの一つの意義は、自分にとってのやりづらさ・生きづらさを明確にし、自尊心を低下させないことにあります。

必要以上に自分を責め、そこからうつ病や不安障害などになってしまわないよう、また逆に診断名や「性格だから」と言い訳にすることなく、自分の得意不得意を診断から自分自身で改めて考え、生活・職場環境を整えていくということが大切です。

ただ発達障害領域については、確固たる診断基準と治療方法が確立されているとは言い難く、それゆえに、主訴であるうつ病が実は発達障害の二次障害的症状であると判断できる医師も限られているのが現実です。

また、抗うつ薬のみでは良い結果を得られないという指摘もありますので、信頼できる専門家・専門機関(発達障害支援センター等)にまずは相談することが大切です。

今回は発達障害を取り上げましたが、職場の対応としては、発達障害に限ったものではなく、個人の能力を見極め適切に対応していく、できないからといって切り捨てていくような風土を変えていくことが、現代のどの職場にも必要なことではないでしょうか。

あくまで一人ひとりの特性への対応・対策・環境・適切な教育を考えることが、診断がある人ない人に関わらず求められるのです。


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精神保健福祉士 山口紗英

精神保健福祉士 山口紗英

精神科単科病院、精神科クリニックでの勤務を経て、産業保健の道に入りました。医療現場での経験を生かしつつ、こころの健康について、皆様と一緒に悩んだり考えたりしながら、二人三脚で前に進んで行きたいと思います。
精神保健福祉士 山口紗英

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