労災事件 異例のスピード判決
昨年の夏頃から、全国の印刷会社で、「胆管がん」を発病する社員が相次いでいるというニュースが流れています。
厚生労働省では検討会を発足させ、印刷機を洗浄する有機溶剤に含まれる化学物質に長時間、高濃度でさらされた場合、胆管がん発症につながる可能性があることを指摘し、労災認定すべきだとする報告書を平成25年3月14日に発表。これを受けた大阪中央労働基準監督署は、3月27日に、労災裁判中である市内の印刷会社の現・元社員ら16人を労災認定しました。
今回の厚生労働省の対応は、これまでの同省とは思えないほど、迅速で素晴らしい対応だったと思います。
アスベスト被害の二の舞には絶対にしないという固い決意を感じ取れるものであり、このことが大阪労基での異例のスピード判決につながりました。
更には、被害を受けた16人のうち5人は既に死亡しており、労災申請の時効(5年)を過ぎていましたが、厚生労働省は、時効の起算日を、胆管がんとの因果関係が明らかにした報告書を発表した3月14日の翌日と定め、時効を認めず、16人全員の労災を認定しています。
労基署の職員による印刷会社への強制捜査の結果、
①産業医が不在となった時期があること
②衛生委員会が毎月開催されていなかったこと
が発覚し、労働者の健康を配慮しなければならない義務(安全配慮義務)違反ということで労災が認定されています。
なお、産業医が選任されていれば、被害が防げた可能性があるとして、印刷会社社長の容疑が固まれば、同社と社長を司法処分(書類送検)する方針です。
この事件の容疑は、産業医選任義務と毎月訪問義務の違反、衛生委員会の毎月開催義務違反などですが、この程度の違反であれば、労基署に指摘されてから整備すればいいだろうと考えている経営者が未だに多いことを、日々実感しています。
印刷業界に限らず、また胆管がんなどの特殊な病気に限らず、
どこの会社でも、起こりえる身近な問題であることを早く経営者の方々に気がついてほしいと切望します。
産業医の名義貸しの問題は、現在も数多く存在しています。また、長時間労働者(残業を月100時間超した労働者と定義がされています)は、翌月までに産業医面談を受けさせなければならない義務があることを知らない会社や、知っていても対応していない会社が多すぎます。
社員の働かせ方や職場環境について、安全配慮義務違反などの労働関連法の違反があり、その結果、うつ病などの病気を発症させた場合、人事的な措置(休業や残業禁止を産業医が企業に勧告し、人事部が決定します)を、適切なタイミングで実施していれば、健康被害や自殺を未然に防げた可能性があると裁判官が判断すれば、労災(というより人事部門の責任者個人による人災)として認定され、会社や人事部門の責任者が刑事罰を受けることになっています。
国内の企業には、未だ、産業医面談を受けたこともない、その存在すら知らない労働者がたくさんいます。
会社のために、社員のために、そして経営者や人事の責任者のためにも、是非ともこの機会に産業医の導入をご検討してみませんか。秘密は厳守いたします。
高橋 雅彦
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